「マーケティングオートメーション(MA)」とは、マーケティング活動を仕組み化すること、およびそのために使われるソフトウェア(ツール)を指して使われる言葉です。見込み顧客や顧客の興味関心にあわせて効果的かつ効率的にマーケティング活動を展開することができるため、近年導入が進んでいます。
この記事では、MAでいったいどんなことができるのか、MAツールにはどんな機能があるのかを解説し、失敗しない導入の流れを紹介します。
マーケティングオートメーション(MA)とは
マーケティングオートメーションという言葉は「マーケティング=顧客の開拓」+「オートメーション=仕組み化」と分解することができます。つまり、マーケティングオートメーション(MA)とは、ひとことで言えば「顧客開拓を仕組化すること」です。また、そうした仕組化をより効率よく行うためのツール自体も「マーケティングオートメーション」と呼ばれます。

「オートメーション=自動化」という言葉から、「マーケティングオートメーションツール(以下、MAツールと略します)」を入れれば自動的に顧客が増える!?」と夢のような話を想像された方もいるかもしれませんが、そうではありません。
MAツールは、例えていうなら顧客開拓の仕組み作りを支援する「助っ人」のようなもの。マーケティング担当者が行うべき様々な活動を効率化し、仕組化する手助けをしてくれるのがMAツールです。
たとえば、マーケティングのポピュラーな施策の一つに、見込み顧客(リード)に向けたメールマガジンの送信があります。
メールマガジンを送信するためには、①リードのメールアドレスを入手し、②入手したメールアドレスを元に送信先リストを作成して、③メールを送るという作業が必要ですが、MAツールを使うと、Webサイト上に設置したフォームでリードのメールアドレスを獲得して自動的にデータベースに登録し(リード獲得機能)、適切な送信先に対して自動で個人に合う内容のメールマガジンを送信できます。
あるいは、Webサイトを訪問したリードの属性に応じて適切なページへ誘導したり、行動履歴に応じてリードにスコアを付与し、導入検討の進み具合を測ったりすることも可能です。
いずれもある程度は担当者による設定・管理作業が必要ではありますが、日々繰り返し実施する煩雑な作業を自動化することで、マーケティング活動を大幅に効率化することができます。これが、MAツール導入の最大のメリットだといえるでしょう。
マーケティングオートメーションの重要性
マーケティングオートメーションの市場は2014年に米国Oracle社が「Oracle Cross-Channel Marketing(旧Eloqua)」の日本でのサービス提供を開始して以来、拡大の一途をたどっていますが、最近になってさらにその傾向に拍車がかかっています。

[1]出典:㈱矢野経済研究所「DMP / MAに関する調査(2020年)」2020年10月26日発表
MAツールの市場規模[1]は、2019年に402億円でしたが、2020年には447億円(見込み)にまで拡大し、2025年には737億円にまで成長すると予測されています。
その最大の理由の一つが、情報収集のオンライン化です。
インターネットの普及により、私たちはあらゆる情報をオンラインから入手できるようになりました。米国の調査によれば、BtoCでは81%の消費者が、買い物をする前にネットリサーチをして[2]いますが、BtoBではその傾向がさらに顕著となり、92%の企業が商品・サービス(特に技術的な製品)の購入前に、ネットで事前調査を行っている[3]といいます。

[2]出典:GE Capital Retail Bank’s Second Annual Shopper Study, 2013.
[3]出典:B2B Tech Buyers, International Data Group, 2013
かつては営業といえば、企業を訪問しなければ始まらないようなところがありましたが、昨今の企業担当者は、必要な情報を事前にオンラインで収集した上で、製品・サービス提供企業にコンタクトするようになってきています。つまり、営業が導入検討段階のリードに会うこと自体が昔に比べると格段に難しくなっているのです。
一般にマーケティング・営業活動においては、検討段階のより早い段階でリードを獲得することが望ましいとされています。というのも、早期にリードにコンタクトし、検討度合いの変化に応じて段階的にアプローチをかけた方が、より効果的に顧客育成(リードナーチャリング)に取り組むことができるからです。
ところが、前述のように情報収集のオンライン化が進んだことによって水面下でサービス選定が進むようになり、ようやくリードにコンタクトできた時にはほぼ選定が終わってしまっている、といった状況になりつつあるのです。つまり、企業側からすると「会ってくれない」「ニーズを教えてくれない」「競合の情報も知っている」ようなリードに「非対面でいかにコミュニケーションをとり成約に繋げるか」が、マーケティング上での非常に大きな課題となってきているわけです。
だからこそ、「非対面での顧客開拓を仕組化する」ことを目的としたMAが注目され、導入が進んでいるのでしょう。日本は長い間「マーケティング後進国」として欧米に遅れを取ってきましたが、こうした変化を背景に、日本企業の中でマーケティングに対する意識の高まりがみられるようになってきています。
何ができるの?MAツールの具体的な機能
さて、MAツールを使うと顧客開拓の仕組化を効率化できることは分かりましたが、具体的にはどんなことができるようになるのでしょう?
MAツールの具体的な機能について説明をはじめる前に、まずは下記の図をご覧ください。

一般にBtoBマーケティングは、この図のような流れで進みます。この一連のプロセスをデマンドジェネレーション(※1)と呼び、MAツールにはこれらのプロセスを支援するための下記のような機能が備わっています。
- リードを獲得する機能(リードジェネレーション)
- リードを管理する機能(リード管理)
- リードを育成する機能(リードナーチャリング)
- リードの絞り込みを行う機能(リードクオリフィケーション)
- マーケティング業務を自動化する機能(オートメーション)
以下、各機能について一つひとつ順に解説します。
【用語解説】
https://satori-marketing.instawp.xyz/marketing-blog/lead-qualification/
※1デマンドジェネレーション(Demand Generation):営業活動の源泉となる見込み案件を創出するための一連の活動。一般に①リードジェネレーション、②リードナーチャリング、③リードクオリフィケーションの3つのプロセスを経て、見込み顧客の受注確度を高めていく。
1)リードを獲得する機能(リードジェネレーション)
将来的に顧客となる可能性を秘めたリード(※2)を大量に獲得するための機能で、自社を認知していないユーザーに認知してもらうための機能(認知前)と、一度でも自社と接点を持ったことのあるユーザーにアプローチして個人情報を開示してもらうための機能(認知後)の二つに大きく分類されます。
認知前 | 認知後 |
デジタル広告 SEO・コンテンツマーケティング ソーシャルメディア |
リターゲティング広告 ポップアップ リコメンド プッシュ通知 ランディングページ/フォーム設置 |
【活用イメージ】 ・ソーシャルメディア連携によりSNS上で認知拡大を図り、自社Webサイトへ誘致する ・Webサイトへ訪問したユーザーを、遷移元ページに応じて適切なページへ誘導する ・自社Webサイトを訪問したことのあるユーザーに対し、プッシュ通知を送信して再訪問を促す |
【用語解説】
※2リード(Lead):見込み顧客・潜在顧客をあらわすマーケティング用語
関連記事>> リードジェネレーションとは?具体的な手法と事例も紹介
2)リードを管理する機能(リード管理)
リードジェネレーションのプロセスで獲得したリードを管理する機能です。
より具体的には、獲得したリードの情報をツールに内蔵されたデータベースに登録して管理します。登録したリードの情報は必要に応じて更新したり、セグメントやタグをつけたり、削除したりすることも可能です。
【活用イメージ】 ・Webサイト上の資料請求フォームから送信された顧客情報を、自動的にデータベースに登録 ・メールマガジンの送付に際し、データベースに登録されたリードの中から適切な送信先を抽出して送信リストを作成 |
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3)リードを育成する機能(リードナーチャリング)
リードナーチャリングは、獲得したリードに対して、メールや電話、ポップアップやプッシュ通知、リターゲティング広告(※3)などを活用して購買意欲を高めていく活動です。
リードナーチャリングを効果的に行うためには、顧客の属性や嗜好、検討度合いなどの情報を把握しておくことが大切です。MAツールを活用することでこうした情報を統合的に管理し、必要なタイミングで活用することが可能となります。
【活用イメージ】 |
【用語解説】
※3リターゲティング広告:一度自社サイトを訪れたユーザーに対して、再訪問を促すための広告。
関連記事>> リードナーチャリングとは?具体的に何をやるの?手法を事例で解説
4)リードの絞り込みを行う機能(リードクオリフィケーション)
リードクオリフィケーションは、大量のリードの中から成約確度の高いリード(セールス対象リード)を選び出し、営業部門に引き渡すためのホットリード(※4)リストを作る活動です。
MAツールには、個々のリードの属性やオンライン・オフラインの行動履歴などをもとに成約確度を推測するためのスコアリングという機能が搭載されています。
また、抽出したホットリードリストを効率よく営業部門に引き渡す、SFA連携機能が搭載されているツールもあります。
【活用イメージ】 |
【用語解説】
※4ホットリード(Hot Lead):自社の製品やサービスに対して強い興味・関心を抱いている見込み顧客。受注確度が高まった状態の見込み顧客を指して使われる場合も多く、より確度の低い見込み顧客をウォームリードやコールドリードと呼ぶ。
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5)マーケティング業務を自動化する機能(オートメーション)
あらかじめ決められたルールに従って、リードへのアプローチやマーケティング業務を自動化するための機能です。ある意味、「マーケティングオートメーション(MA)」という名前から想像するイメージに最も近い機能だといえるかもしれません。
オートメーション機能を活用することで、マーケティング担当者がリード一人ひとりに対して行うべき施策を効率よく実施することが可能となります。
【活用イメージ】 |
MAツールを導入するためにやっておくべきこと
以上、マーケティングオートメーション(MA)の概要、およびMAツールの持つ機能についてお話ししましたが、最後にひとつ、大切なことをお伝えしておきたいと思います。
前段でも述べたとおり、MAツールは「それさえあれば自動的に顧客が増える魔法の道具」ではありません。ツールはあくまでもマーケティング活動を手助けするものであり、それを生かすも殺すも使う側次第なのです。
これからMAツールを活用しようと考えている方は、まずは自社が抱えるマーケティング上の課題を整理した上で、ツールによって解決したいことを整理しておきましょう。
また、可能であれば事前に以下のような作業を行っておくと、よりスムーズに導入を進めることができるはずです。
1.カスタマージャーニー(バイヤーズジャーニー)マップの作成
顧客が自社の製品・サービスを見つけてから購入に至るまでの道筋を整理し、カスタマージャーニーマップを作成しておきましょう。
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2.セグメントの基礎設計を行う
顧客を属性や行動履歴などによってグループ分けすることをセグメンテーションといい、セグメンテーションによって分割されたグループをセグメントと呼びます。
MAツールでは、セグメントごとに実施する施策を設定できるため、あらかじめどのようなセグメントに分割するのかを検討しておくとよいでしょう。
3.コンテンツの準備
Webサイト上に掲載するノウハウ記事やブログ、製品カタログ、ダウンロード用ホワイトペーパーなどのコンテンツを準備しておきましょう。はじめからたくさんのコンテンツを用意するのが難しい場合、ニーズの高いコンテンツさえ用意できれば、本数は少なくても問題ありません。
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4.運用体制を決める
MAツールの導入後、誰がどのような役割分担で運用するのか、可能な範囲で明確にしておきましょう。運用体制について検討しないまま導入してしまうと、「運用要員が確保できず、せっかく導入したツールを活用しきれない」という事態を招きかねません。
運用前からすべてのチームメンバーをバイネームで体制を固める必要はありませんが、最低限、どの部門が運用を担当するのかは決めておくことをお勧めします。
なお、運用体制を決めるにあたっては、関連する部署との連携も大切です。特に、営業部門との連携は重要なポイントとなるため、あらかじめ運用イメージのすり合わせを行っておけるとよいでしょう。
…とはいえ、他部署との連携を調整するのは、口でいうほど簡単なことではありません。調整がうまく進まず悩んでいる方は、経験豊富なツールベンダーに相談して運用サポートを受けたり、ユーザー会の仲間からノウハウをシェアしてもらったりするのもよい方法です。
せっかくMAツールを導入するのですから、十分に活用し、最大限の効果を上げたいとお考えの方がほとんどでしょう。ぜひ、自社の課題を改めて見直した上で様々なMAツールをじっくり比較検討し、貴社に合ったツールをお選びいただければと思います。
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東京大学情報理工学系研究科修士課程修了後、トライアックス株式会社を設立。
デジタルマーケティング業界にて23年。エンジニアリング・営業・マーケティング・会社経営に従事。
2014年にトライアックスの社内ベンチャーとしてSATORIをスタートし、2015年9月新会社SATORIを設立。
SATORIを通して、「現場マーケターの成果」にこだわった事業を行っている。