マーケティングの実践は、いくつかのステップに分けることができます。
この記事では初期段階のステップにあたる「環境分析」の中から、「3C分析」について解説していきます。
1. 3Cの基礎知識とその位置づけ
最初に、「3C分析」の基本を押さえておきましょう。
日々の業務を経験でこなしている方も、基本を知ることで思考力や新たな発見などにつながるはずです。
1.1 3C分析とは
3C分析はマーケティング戦略や事業計画を立てる際に、環境分析をおこなうための基本的なフレームワークです。
マーケティングにおけるフレームワークとは、情報やアイデアを素早く整理したり図式化するためのツールや考え方を指し、3C分析は異なる3つの観点から調査をおこなっていきます。
・顧客(Customer)
・競合(Competitor)
・自社(Company)
異なる3つの観点すべての頭文字に、「C」がついています。3C分析は、この頭文字から名付けられているというわけです。
これらを独立して捉えるのではなく、それぞれの関係性までを考えていくというのもポイントになります。
オリジナルのコンセプトとして、「立場の異なる3つの視点」「異なる3つが影響し合う関係性」が説かれています。つまりこのふたつが、3C分析の大きな特徴となります。
1.2 マーケティングでの位置づけ
マーケティングのステップは、順番に大きく次の3つに分かれます。
(1)環境分析
(2)基本戦略
(3)施策
シンプルに言うと、「分析をして、戦略を立てて、実行する」という流れです。
3C分析は「環境分析」の中にあるフレームワークで、主として業界内外の環境分析をおこなう位置づけです。
環境分析における他のフレームワークには、マクロ環境を分析するための「PEST分析」、戦略目標を立てていくための「SWOT分析」などがあります。
ここで一点押さえておいていただきたいのは、「3C分析は客観的な情報を集める」に主眼を置くフレームワークであるということです。分析とついていますが、どちらかと言えば情報収集が主です。課題や解決方法を考えていくのは、「SWOT分析」の役割です。
環境分析の各フレームワークを活用する基本的な順番と、それぞれの主な役割は次の通りです。
(1)3C分析:事業の成功要因を把握する。
(2)PEST分析:外的要因が自社にどんな影響を与えるのか把握する。
(3)SWOT分析:戦略や計画を立てる際の状況を分析する。
3C分析以外のフレームワークについて、簡単に解説しておきましょう。
PEST分析は業界を取り巻く、外部環境の情報を収集するためのフレームワークです。外部環境とは「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つを指します。戦略立案やマーケティングを行なう際に、自社を取り巻く外的要因を紐解く際に使用できます。
SWOT分析は、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの頭文字からできたフレームワークです。現状を分析し、課題の抽出や解決方法を導き出すことができます。
2. 3Cの分析方法
ここでは3C分析の異なる3つの観点について、詳しい知識を身につけていきましょう。
2.1 顧客(Customer)

まず、「顧客(Customer)」から見ていきます。
3C分析におけるCustomerは顧客だけではなく、それと一体ともいえる市場も含んでいます。
これらは大きく、次のように分類することができます。
○顧客
・ニーズ、価値観
・消費行動(購買行動)
・消費人口
・購入プロセス
○市場
・規模
・成長性
・変化
顧客については、購買データはもちろん、アンケート調査なども価値があるデータです。定量、定性の両面でデータを取得するようにしていきましょう。
アンケートのように顧客に直接聞く、が重要なのはもちろんですが、日々接している販売員やカスタマーセンターのスタッフにヒアリングするといったことも有効です。
BtoB企業の場合には、顧客と直に接している営業スタッフやカスタマーサクセスへのヒアリング機会を持つようにしましょう。
市場に関しては、前章で紹介したPEST分析の結果も入れるとより効果的です。3C分析の前にPEST分析をおこなった方が良いとしているのは、外部環境という大きな枠を把握した後に、その中に置かれた内部環境を分析していくという流れがスムーズになるからです。
PEST分析は大きな景気や法改正といったものを対象にしたマクロ分析ですが、業界内の変化を見ていくミクロ分析もくわえるとより精緻な分析データとなります。
2.2 競合(Competitor)
次が「競合(Competitor)」です。
競合が複数ある企業は多いと思いますが、すべてをピックアップする必要はありません。代表的な企業や、特に意識している所だけ対象にしましょう。
「競合企業を分析する視点」と、「業界内での位置づけや特徴」に分けると、どういったことを見ていけばいいかわかりやすくなります。
○競合企業を分析する視点
・企業やサービス、商品の特徴
・商品やサービスの開発力
・販路
・顧客数
・カスタマーサポート
・売上単価、顧客単価
・収益や生産性
・PR力
・リソースや体制
・資本金や規模
・動向
○業界内での位置づけや特徴
・シェアとその推移
・戦略
・特徴などを基にしたポジショニング
・影響力
競合を分析する際に気を付けたいのは、小さな視点だけで見ないことです。
よくある例としてデジタルマーケティングの担当者の場合、Webサイトやインターネット上の取り組みにばかりに目がいき、その範囲だけの分析結果として出してしまいがちです。
しかし先ほど複数の項目をピックアップしたように、その企業の持つ商品やサービスはもちろん、業界内でのシェアや影響力といった広い視点で見ていくようにしましょう。
競合分析の際に複数の項目があって定めにくいという場合には、「結果」と「要因」の二軸を中心に見ていくといいでしょう。
結果とはビジネス上の成功であり、要因とはその結果を出せた理由を指します。
たとえば毎年、前年比を大きく上回る売上をあげ続けている競合があったとします。売上の向上が結果で、その要因を探っていくと「毎年必ず新商品の発表がある」「カスタマーサポートが高評価を受けている」ということがわかりました。これが要因です。
なおこうした競合の優れている部分を継続的に探り、自社のビジネスに取り入れていくことを「ベンチマーキング」と呼びます。
2.3 自社(Company)
最後に、「自社(Company)」についてです。次のような項目で見ていきます。
・商品やサービスの特徴
・今後の展開
・売上やシェア
・企業としての理念、ビジョン
・資産、資本力
・投資能力
・人員配置、体制
・「ヒト、モノ、カネ、情報」といったリソース
・PR力
これ以外にも、競合と比較しやすいように同じ項目を見ていくなどもいいでしょう。
自社の分析をより効率的におこなうフレームワークとして、「VRIO分析」があります。
これは自社を、「経済価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣困難性(Imitability)」「組織(Organization)」の4つの観点で見ることで、市場での優位性を分析するための方法です。これにより企業内部の強みの質、市場での競争の優位性を見極めやすくなります。
それぞれの観点について、具体的に触れておきましょう。
「経済価値(Value)」は、名前からだと少しイメージしにくいかもしれません。経済と付いていますが金銭的な価値ではなく、自社が顧客や市場に対してどれだけの利益をもたらす存在か、あるいは脅威や機会へ対する適応力を見るものです。「希少性(Rarity)」は独自なものを持っているか、さらにその独自なものが真似をされにくいかが、「模倣困難性(Imitability)」です。「組織(Organization)」は企業内の文化や体制を指します。
2.4 完成と共有(すぐに使える基本テンプレートあり)
ここまで紹介した「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの要素について、関係性を持たせることで3C分析は完成します。
無料で利用できるテンプレートをご用意しましたので、これをもとに3C分析をまとめてみてください。
▶▶3C分析テンプレートのダウンロードはこちらをクリック
一つのドキュメントに3C分析を簡潔にまとめることで、共有がしやすくなります。
3C分析はマーケティング担当者がまとめて終わりというわけではなく、共有することで社内や関係者の意識を共通化できる、今後の取り組みが理解しやくなるといったメリットがあります。
3. マーケティングの3C分析を実践形式で解説
それでは、実践形式で3C分析をおこなってみましょう。
イメージしやすい身近なものとして、「F社が提供する法人向け研修」という架空のサービスを対象に考えていきます。
※イメージをつかんでもらうためのものであるため、データや業界の現状などの内容について正確なものではない簡易的な例となっております。その点はご了承ください。
【顧客(Customer)】
○顧客
・社員教育を充実させたい。
・若手と中堅、次世代リーダー、中間管理職、経営層といったセグメント別の教育プログラムが必要。
・eラーニングでの実施希望が増えている。
○市場
・市場規模は約5,200億円。
・ここ数年は微増で推移。
・eラーニングは、全体の四割近くを占める。
【競合(Competitor)】
○競合企業を分析する視点
・D社は人材ビジネスでトップの位置にあり、その豊富なネットワークを生かした受注が多い。
・E社はプログラムの独自性、カスタマイズ力に定評あり。
・G社は後発ながら、eラーニングに特化しシェアを毎年倍以上に伸ばしている。
○業界内での位置づけや特徴
・トップのD社はシェア約35%、2位のE社はシェア約10%。
・シェアとしてD社が突出する形だが、eラーニングへの対応遅れにより成長は鈍化。
【自社(Company)】
・もともと個人向けのスクール事業をメインにしており、そこから法人向けサービスも立ち上げた。法人とのパイプがなかったため、取引先のほとんどは新規開拓。
・シェアとしては3%程度で、サービス開始から5年目でようやく黒字転換。
・個人向けで動画配信のノウハウが蓄積できているため、法人向けにもそれを生かしたプログラム開発を進行中。
このように客観的な事実を出していきます。
インターネットで検索した情報をまとめるだけでなく、ヒアリングや調査の実施など、可能な限り一次情報を集めていきましょう。
4. 3C分析とSWOT分析の組み合わせ
3C分析で集めた情報に対して評価や解釈を加え、課題や解決方法を考えていくのが「SWOT分析」です。環境分析内では、3C分析の次におこなう位置づけです。
3CとSWOTは分析の要素が非常に近しい関係にあります。しかし各要素が近いとはいえ、やはり違いはあります。
それは3Cが事実や情報を集めるのに対して、SWOTは戦略目標を導き出すための解釈を加えより具体性を持たせていく、という点です。
またもうひとつ、3Cは顧客(Customer)を中心に考えていきますが、SWOTは自社(3CのCompany)を主体として考えていきます。
これは別の言い方をすると、3Cは「顧客に対する価値の洗い出しをおこなうこと」、SWOTは「自社の目標を達成するための状況の整理をすること」となります。
5. BtoB企業が気をつけるべきポイント
最後にBtoB企業で3C分析をおこなう場合に、気をつけておきたいポイントをお伝えしておきます。
基本的な流れや考え方は同じです。違いは、BtoB企業の場合は「顧客側の3C分析もおこなうとベスト」という点です。
具体的な例をあげましょう。
電子部品メーカーの場合、主な顧客は、電子部品を使って製品化する電機メーカーです。
3C分析でまずは、自分たちがいる電子部品業界の環境分析をおこなうことは基本。しかしそれだけでは十分ではありません。
基本的な3C分析だけだと、顧客である電機メーカーに関する情報や理解が抜け落ちてしまうからです。
電機メーカーの環境という観点では、たとえば海外取引の活性化、そして現在だとIoTは見逃せない問題です。ただし海外取引については、必ずしもグローバル化一辺倒ではないというふうに、状況も逐次変化しています。
このように顧客側の3C分析をおこなわないと、ビジネスに必要な環境分析が十分にできていないことになります。
自分たちがいる業界とともに、顧客がいる業界の3C分析をダブルでおこなうことから、これを「6C分析」と言うこともあります。
6. まとめ
3C分析について、特に重要なポイントをまとめておきましょう。
●3C分析は「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの異なる観点からの情報を集め、関係性までを考えていくものです。
それぞれの観点についての内容とやり方は、次のとおりです。
・「顧客(Customer)」は顧客と市場を見るもの。方法としてはアンケート調査などがあります。社内へのヒアリングも有効です。
・「競合(Competitor)」は競合企業を分析する視点と、業界内での位置づけや特徴の二軸で見ます。結果とそれを出した要因、という大枠に当てはめていくとよりわかりやすくなるでしょう。
・「自社(Company)」については競合と比較できる項目や、市場での優位性を見るための「VRIO分析」を用いると、さらにわかりやすくなります。
・3つの要素について、その関係性を三角に結んだ一つのドキュメントにまとめます。それにより社内での意識合わせがしやすくなり、理解が進むようになります。
●3C分析は基本的に、客観的な情報を収集することが目的。集めた情報に対しては、SWOT分析で戦略や目標を導くための解釈を加えていきます。
●BtoBでは顧客側の環境分析を含めた、「6C分析」をおこなうとより効果的です。
「顧客を軸にした環境分析」という3C分析の価値は、多くの時代の変化があっても変わってはいません。ですからこの3C分析について、内容に対する理解とやり方についてきちんと押さえておくようにしましょう。
またマーケティングの世界では顧客にとっての価値やコミュニケーションを見る「4C分析」や、3C分析に中間顧客と環境社会を加えた「5C分析」といった、発展型ともいえるフレームワークも登場しています。
これらの分析方法も状況により取り入れていくと、より効果的になるでしょう。
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