集客だけではなく、見込み顧客の育成やCRMにも幅広く実施されるコンテンツマーケティング。各社さまざまな施策を行っています。ここでは筆者が「面白い」と感じた、とても参考になるコンテンツマーケティングの事例を8つ解説します。ユーザーとしてコンテンツに触れることで、ターゲットとシナリオが見えてきます。そこから戦略や手法を分析して解説しました。これから施策を始める方にとって、きっと参考になるはずです。「コンテンツマーケティングとは」と合わせてお読みください。
BtoCのコンテンツマーケティング成功事例4選
1)楽天のオウンドメディア『ソレドコ』(BtoC)
「それ、どこで買ったの」略して「ソレドコ」というド直球な楽天のオウンドメディア。小売店やショッピングモールが運営しそうなランキングサイトではなく「ハマる・沼」をテーマにしたちょっとディープな商品紹介系コンテンツがメインとなっています。

楽天市場に関心がない若年層に接触し、楽天に興味を持ってもらうことを目的として作られました。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・新規(非楽天会員) | ・テキストページ | ・SEO ・SNS |
ただ商品を紹介するだけのコンテンツではなく、ライター独自の視点や特定のテーマからのおすすめアイテムの紹介やハウツーから、自然な形で楽天市場の商品検索結果に送客する仕組みとなっています。メディア全体的に強い営業色が出ておらず、楽しんで読めるよう設計されているところに好感がもてます。最初にポリシーを作り、それに沿って記事を作ることでマナー品質が保たれているのでしょう。
参考:
楽天市場「ソレドコ」から学ぶオウンドメディア戦略とブランディング
https://contentmarketinglab.jp/application-method/cmd2019-btoc-report-1/

ブランド認知という目的に対して、ブランドリフト調査を実施。「楽天市場をおすすめしたいか?」という質問に対し、ソレドコの記事に接触したユーザーが、非接触ユーザーより「おすすめ度」が高いという結果が出ています。
このように結果を数値で残し、オウンドメディアの存在意義を証明することで、施策継続に社内合意が得られます。コンセプトや記事の設計から目標設定まで参考になる面白い事例です。
2)トヨタ自動車の『トヨタイムズ』(BtoC)
テレビCMでオウンドメディアを宣伝する、そんな時代が来るとは。当時、香川照之さんが編集長扮する「トヨタイムズ」のCMを見て度肝を抜かれたマーケターは多かったのではないしょうか。「トヨタイムズ」はテレビCM、YouTube、Twitterなど複数のメディアで展開される、2019年にスタートしたトヨタ自動車のオウンドメディアです。

電通の提案で始まったプロジェクトですが、驚くことに、一部の記事は内製で作られています。企業の中にしかない声を外に届ける、そんな情熱的なコンテンツがSNSを通じて発信されているのは、豊田社長をはじめとする社内メンバーが多く関わっているからではないかと感じます。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・既存~ロイヤル | ・テキストWebページ ・動画 |
・テレビ・新聞などマスメディア ・SNS |
YouTubeでは豊田社長自ら出演し、視聴者へメッセージを届けています。
商品を売り込んでいくのではなく、企業の想いを伝えて共感を得ていく、まさに「トヨタの応援団づくり」と表現されるとおり。「本気のオウンドメディア」をビジョンに掲げて挑戦する様子は、トヨタ自動車の自動車業界変革への挑戦と重なって見えます。2021年9月現在、Twitterのフォロワー9.5万、YouTubeのチャンネル登録者は20万となっています。これだけの支持を得られているのは「本気」が伝わったからでしょう。大規模な予算を使える大手だからこそでは?と感じられるかも知れませんが、近年では経営者の想いの詰まった社内報のようなコンテンツを外部に出し、共感を得ていく手法は広がりつつあります。小規模からスタートする場合でも、トヨタイムズのコンセプトは大いに参考にできるのではないでしょうか。
3)北欧、暮らしの道具店(BtoC)
「北欧、暮らしの道具店」は株式会社クラシコムが運営する日用雑貨・インテリア雑貨のECサイトです。月間UUは約150万という、根強いファンの多い人気ショップと言えましょう。商品を並べて売るだけではなく商品の背景となるシーンやドラマを大切にすることで、ファンを増やしています。配信しているコンテンツは主にWebドラマなどの動画と、スタッフのコラム(テキスト)です。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・既存~ロイヤル | ・動画 ・テキスト |
・SNS |
YouTubeでは「#青葉家のテーブル」「#ひとりごとエプロン」など人気のWebドラマも配信しています。ドラマ制作の目的は「大切な人たち(お客さま)の心に触れられるような映像作品をつくろう」ということだそうですが、逆にこのドラマから「北欧、暮らしの道具店」を知る方もいらっしゃると思います。
ドラマ以外もたくさんの番組が用意されていて、登録者を飽きさせない取り組みを行っており、チャンネル登録者数は45万人以上(2021年9月現在)。
「#わたしの好きな時間」では大人の女性が「自分だけの時間」として過ごしている時間帯の過ごし方アイデアを提案しています。
動画の中で使われているアイテムは概要欄にリンクがあり、そこから購入できます。ドラマやハウツーから購入意欲を刺激していく素晴らしいつくりになっています。
テキストコンテンツでは、スタッフが丁寧に商品レビューを書いていたり、愛用品の紹介も行っています。衣類のレビューは、身長の違う複数人が着用し、何カットも撮影して掲載する丁寧なコンテンツ。

動画もテキストも、すべてのコンテンツにスタッフの自社商品への愛があふれています。ブランドの「らしさ」を実直に伝えていくことで、多くのファンを育んでいると感じられる事例です。
4)ハーゲンダッツジャパン(BtoC)
InstagramなどSNSを使ったマーケティングはブランディングだけでなく、コンテンツの配信やコミュニケーションの場として活用することも可能です。ハーゲンダッツジャパンはInstagram、Facebook、Twitter、LINE、それぞれに合う形で運用し、合計1000万以上という圧倒的なファン数を誇ります。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・新規~ロイヤル | ・画像 ・動画 ・テキスト ・スタンプ など |
・InstagramなどSNS |
Instagramの投稿では、商品紹介だけでなく、映画の紹介やハーゲンダッツを使ったレシピの紹介なども配信されています。


クリスピーサンド片手に…と映画のお供としての立ち位置を訴求しつつ、オリジナルのイラストでおすすめの映画の紹介を行うスタイルに多くの共感が得られ、毎回2000以上の「いいね」がついています。
新フレーバー発売の投稿では、一方的なお知らせではなくユーザーに話しかけ、コメントしやすい状況を作り出し、双方向のコミュニケーションを実現。

発売日がわかるかわいいカレンダーをInstagramやFacebook、Twitterなどで配信。他にもストーリーズ用のGIFスタンプやLINEスタンプなど、フォローしていると手に入るかわいいアイテムで継続的に見てもらえる工夫がされています。

※カレンダーは待ち受けを意識したサイズになっています
ハーゲンダッツにとって、SNSはユーザーとの交流の場であり「好きになってもらう」を担うコンテンツマーケティングとして活動しています。SNSを使ったファン育成のコンテンツマーケティングとして教科書となるような事例です。
BtoBのコンテンツマーケティング成功事例4選
5)「freee開業」とクラウド会計ソフト「freee会計」(BtoB)
筆者も利用している開業支援の「freee開業」とクラウド会計ソフトの「freee会計」。その存在は以前から知っていましたが、出会いは突然で、そして必然でした。freeeは見事なシナリオ設計によって、開業時のインターネットユーザーを魅力的な製品へと誘導しています。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・新規見込み顧客 | ・テキストWebページ ・ホワイトペーパー ・メール×Webページ |
・SEO ・メール |
開業するときは「開業届」というものを税務署に提出するところから始まります。その際多くの方が「開業届」「開業届 書き方」などのキーワードで検索を行い、情報収集することでしょう。freeeはペイドサーチ(リスティング広告)・オーガニックサーチ(自然検索)どちらでも上位に表示されるようになっています。宣伝されたくない方はオーガニックサーチの「開業届とは」というコンテンツをクリックするのではないでしょうか。筆者も実際そうでした。

オーガニックサーチで1位のコンテンツは、開業届についてわかりやすく解説してくれています。記事熟読後に目に入るのは、「簡単な質問に答えて情報を入力するだけで、開業届を無料で作ることができる」というオファー。

図でわかりやすく解説してくれているため、これなら簡単!と多くの人が無料の「freee開業」に登録することになると思います。この「開業の入り口」をしっかり押さえるコンテンツマーケティングがとても素晴らしいです。登録後は丁寧なメールマーケティングを行っています。このタイミングでは営業色の強いステップメールを送ってしまいがちですが、freeeは淡々とユーザーに必要な情報送ってくれます(メール下部には有料版クラウド会計ソフトへのオファーがあります)。

※筆者が2018年開業時に受け取ったfreeeからのメール、
Subjectは「開業ガイド vol.1『開業届を出す大きなメリットとは?』」
筆者は有料版を契約するまで、一度も「売り込みされた感」を感じることはありませんでした。検索エンジンとコンテンツのランディングページ、そして「無料の開業届」という最強のホワイトペーパーからのメールマーケティング、すべてが美しいシナリオで設計されていました。
上記コンテンツは「freee契約に対する確度が高い検索ユーザー」をとらえる手法ですが、ファン育成や認知拡大にfreeeでは「経営ハッカー」というメディアも運営しています。

経営者、個人事業主向けにさまざまな経営に関する情報を配信することで、多くのPVを獲得。一部の記事は会員制にしたり、CTAからホワイトペーパーのダウンロードへ誘導することで、個人情報の獲得にも力を入れて活動しています。
6)サイボウズのオウンドメディア『サイボウズ式』(BtoB)
オウンドメディア運営者で知らない人はいない、というほどその実力は折り紙つき。サイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」は圧倒的な存在感で、幅広いインターネットユーザーから愛されています。

サイボウズは「サイボウズ Office」や「kintone」などのグループウェアメーカーです。サイボウズはオウンドメディアが流行となる2014年ごろよりだいぶ前の、2012年から「サイボウズ式」を運用しています。多くの記事が配信されていますが、自社製品を勧めるものではなく、一つの中立的なメディアとして記事づくりをされていることがよくわかります。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・新規~ロイヤル | ・テキスト | ・SNS ・SEO |
サイボウズ式の記事は、SNSの口コミで広がるバズ系コンテンツが多いイメージですが、ahrefsの分析から30万弱のオーガニックセッションがあることが推測できます。働き方や人事に関するキーワードで上位表示しているものが見つかりました。「週休3日」というサイボウズらしいキーワードで上位表示していることも興味深いですね。

※2019年10月時点のahrefsによる計測
サイボウズ式の編集部は、自由な働き方をしながら楽しく自由にメディアを運営することで、サイボウズがツールや制度をもって取り組む「多様な働き方」や、サイボウズの価値観を周知させることに大きく貢献していると感じます。また、社内の「人」をうまく読者に伝えることで、今難しいと言われる若年層の採用にも貢献しているのではないでしょうか?サイボウズ式が様々な情報を発信していることで、「サイボウズの社風を知っている」「サイボウズの事業を知っている」「サイボウズが目指していることを知っている」人が増加していることは間違いありません。
7)ネオキャリア『HR NOTE』(BtoB)
2000年設立の人材紹介・採用支援を主な事業とするネオキャリア。「人事の成長から企業の成長を」をテーマに掲げ、採用、組織、労務、最先端のHRテクノロジー事例などを発信するメディア「HR NOTE」を運営しています。2021年2月で開設5周年を迎え、これまでに約1,500本もの記事を公開中です。

人事に関するトピックをメインで取り扱い、インタビュー記事に加えて用語解説など検索ニーズのあるコンテンツも展開しています。毎月100万人以上が訪れる巨大メディアとなっています。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・新規~既存 | ・主にテキスト | ・SEO、SNS ・メルマガ |
当初は自社プロダクトへの送客より「人事担当者にとって、とにかく役に立つメディアであるべき」という考えのもと運用していました。順調に成長した結果、HR NOTEは月間100万人が閲覧する大きなメディアとなり、自社プロダクト・メルマガへの誘導やメディア自体でマネタイズすることを検討するフェーズに入りました。そのため、リード獲得に注力することからMAツールの導入を行っています。ポップアップから資料ダウンロード・メルマガ登録のシナリオを実施。

MAツール導入前は1ヶ月50名くらいだったメルマガ登録者は、200名ほどに成長しています。この成功の裏側には、セグメントによるポップアップの出し分けがあります。HR NOTEの8割以上が自然検索流入のため、読んでいるコンテンツと無関係のポップアップはクリックされません。閲覧行動に合わせたオファーを設計することで、多くのリードを獲得できているのです。
【詳しくはこちら】

メルマガ会員登録者数がMA導入前後で242%増!人事メディアの成長に「SATORI」を活用
8)マーケティングオートメーションSATORI『マーケティングブログ』
このブログを運営しているSATORIもコンテンツマーケティングを活用したコミュニケーションをしっかり設計し、運用しています。
ターゲット | コンテンツ種別 | 配信手法 |
・新規~既存 | ・主にテキスト | ・SNS、SEO ・広告 ・メルマガ |
SATORIではオウンドメディアにマーケティング基礎知識やマーケティングオートメーションに関するノウハウ記事を定期的に投稿しながら、いくつかのホワイトペーパーやセミナー・イベントを用意し、見込み顧客や顧客とのコミュニケーションに活用しています。

SATORIの運用で特徴的なのが、見込み顧客を「そのうち客」「いますぐ客」と分類し、その分類に合わせたコンテンツと接触方法を、シナリオを描いて実施していることです。
そのうち客 | マーケティング・営業の課題はあるが、解決の手段を模索しているユーザー |
今すぐ客 | 課題の解決手段がMAだと認知しており、かつ「SATORI」が比較検討に含まれているユーザー |

「そのうち客」が「いますぐ客」に変化していく様を、マーケティングオートメーションを活用して把握し、ポップアップや埋め込みHTMLで読者に合ったコンテンツを提案しています。

複数のキラーコンテンツ、例えばMAの比較ページと料金ページの閲覧を行っているなど、導入を本格的に検討している方には、メールや電話で詳しい情報の提示やヒアリングなどのフォローを行います。コンテンツマーケティングで重要なのは、いかに自然に必要なタイミングでアプローチするか。資料ダウンロードやセミナーなどさまざまなコンテンツから少しずつ「SATORI」を知ってもらい、興味を持ってもらえるようなコミュニケーション設計を意識しています。このような自然なコミュニケーションはMAツールを使って実現することができます。
SATORIの施策については「コンテンツマーケティングのKPI」でも詳しく解説していますので、そちらも合わせてお読みください。
事例を研究し、自社に合う設計を
ここまでご紹介したコンテンツマーケティングの施策すべてに言えることが「不要なタイミングで積極的な売り込み活動を行っていない」ということです。今はインターネットユーザーが手軽に情報を入手し、そして発信できる時代です。コンテンツマーケティングは相手に「売り込みされている」と思われないまま、製品や企業に共感して好きになってもらう手法です。コンバージョンに執着せず、相手の気持ちに寄り添い、心地よい関係を構築することを意識しましょう。広告や派手な売り込みが嫌われる時代、このような施策に活路を見出すことで新たな成果を生み出すことができます。
難しい施策ではありますが、スモールスタートでの導入が可能です。まずは、ニーズのあるコンテンツのテーマを洗い出し、自社サイトにてコンテンツを公開するところから始めましょう。
【あわせて読みたい】
簡単に言うと…コンテンツマーケティングとは何か?これから始める方へ
『マーケティングの教科書』無料ダウンロード

SATORIマーケティングブログ記事の中から、マーケティングの基礎や広告・SNSの活用方法、そしてSEO・Web 解析・セミナーにまつわる情報を一冊にまとめたものです(全173ページ)。
参考記事:
- 【対談レポート】楽天市場「ソレドコ」から学ぶオウンドメディア戦略とブランディング
https://contentmarketinglab.jp/application-method/cmd2019-btoc-report-1/ - テレビCMがオウンドメディアに 「トヨタイムズ」制作の舞台裏
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00344/00006/ - “想いや体温”もさらけ出す――トヨタの本気のオウンドメディア「トヨタイムズ」のYouTube活用
https://markezine.jp/article/detail/36797 - ハーゲンダッツに学ぶコンテンツマーケティング
https://innova-jp.com/haagen-dazs/ - 自由だから成果が出る──サイボウズ式編集長に聞く、「楽しさ重視」のメディア運営術
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m005328.html - 「青野さん、取材やTwitterばかりで仕事できてるんですか?」と聞いてみたら、マネジャーが本当にすべきことが見えてきた
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m005405.html

映像コンテンツプロバイダー・化粧品メーカーECでのWebディレクション・マーケティング担当を経て、コンサルタントに。20社以上のオウンドメディア・コンテンツの企画・戦略設計を行った経験を持つコンテンツマーケティング専門家。2018年5月に独立。検索ユーザーに寄り添うコンテンツ設計を得意とする。