B2B企業のブログや動画、オウンドメディア、そしてメールコンテンツなどコンテンツマーケティングが盛り上がりを見せています。設計の手順から、B2Bならではの注目すべき最新事例まで詳しく解説します。
B2Bコンテンツマーケティングが重要となっている背景
なぜB2Bの取引において、コンテンツマーケティングへの関心が集まっているでしょうか?
インターネットが普及する前の商習慣を、思い浮かべてみましょう。
製品・サービスの導入を検討する企業は、営業マンに説明を受けたり、カタログを取り寄せたりしなければ、適切な情報を得られませんでした。
そのため、まずは出入りの営業マンに話を聞いたり、ダイレクトメールを送ってくる企業に問合せたりすることが多かったでしょう。
ところが、インターネットの普及によって、B2CだけでなくB2Bでも、買い手と売り手の情報格差がなくなります。
BtoB取引の買い手側の担当者の行動を調査した、次のデータをご覧ください。
- BtoB取引において、92%の企業は製品/サービスの購入前に ネットリサーチを行う。(※1)
- BtoB取引の情報源は、営業担当者30%に対して、企業Webサイトは50%(※2)
- BtoB企業は買い手企業が購買意思決定プロセスの60%をサプライヤーに連絡する前に済ませている。(※1)
つまり、営業マンと対面で商談をする前に、見込み客は既に多くの情報を収集している、あるいは既に購入する製品・サービスを決めてしまっている場合もあるのです。
この傾向はさらに進み、「2020年までに、人々は企業との取引の85%を対面のやり取りなしで 行うようになる。」(※1)という予測も出ています。
このような時代の流れのなかで注目されているのは、製品・サービスの導入検討にあたって見込み客が必要とする情報を、自社のコンテンツとして提供するという方法、つまりコンテンツマーケティングです。
非対面チャネルを使ってコンテンツを見込み客に提供して、有効商談を創出することが求められているのです。
※1 出典:Retailingtoday、E-consultancy、Acquity Group、CEB、ガートナー より
※2 出典:TRIBECK, Sirius Decisions, Marketo
B2Bのコンテンツ設計の手順とは?
このような背景もあって、多くの企業がコンテンツマーケティングに取り組み始めています。
ところが、すぐに成果を挙げている企業ばかりではありません。
私が企業の担当者に話を伺ったときに出てきたのは、「どうやってコンテンツを作ればいいのか、分からない」という悩み。 その方法について、整理してみました。
ペルソナ設定
はじめに、ターゲットとなる見込み客について、イメージを形づくりましょう。
- どのような業種、どの程度の売上規模の企業が多いのか?
- 担当者は、何の部署・役職にいるのか?
- どのような課題や悩みを抱えているのか?
- 何についての情報を求めているのか?
- 製品・サービスを選ぶときに、何と比較するのか?どのような基準で選ぶのか?
既存クライアントの傾向を営業担当者にヒアリングしたり、見込み客からの問合せデータを調べたりなどして、ターゲットとする見込み客の傾向を洗い出しましょう。
バイヤーズジャーニー/顧客ステータスの定義(シナリオ設計)
次のステップは、見込み客の意思決定プロセスを把握することです。
見込み客が製品の導入を決めるまでには、どのように候補先の企業と接触するのか?
どのような手段で情報を収集するのか?
どのような決裁ルートをたどるのか?
これらのプロセスを、「バイヤーズジャーニー」(=購入に至るまでの道のり)として可視化します。

なぜ、バイヤーズジャーニーを定義するのが有効なのでしょうか?
それは、見込み客の検討ステージごとに、必要な情報が異なるからです。
検討段階の進んでいる見込み客にとっては、製品・サービスに直接に関係する情報が参考になるでしょう。
逆に、まだ検討が進んでいない情報収集の段階の見込み客にとっては、製品・サービスについての情報は魅力的ではないかもしれません。
コンテンツの切り分けの例
業種 | 具体的に検討している段階 | 情報収集の段階 |
---|---|---|
広告代理店 | 広告料金のモデルケース、支援企業の成功事例、幹部社員のプロフィールなど | 費用対効果を上げるためのノウハウ、広告テクノロジーについての説明記事、マーケティング担当者へのインタビューなど |
教育研修企業 | 導入企業のケーススタディ、研修のメソッド、育成する人材についての理念など | 研修にまつわる専門用語の解説、海外で主流になっているトレンド、人事部へのアンケートデータなど |
このように、見込み客の検討段階に応じて、どのような情報が求められるか?を考えましょう。
顧客ステータスに合わせたコンテンツ設計
顧客ステータスごとに情報ニーズが見えてきたら、具体的なテーマの洗い出しに取りかかりましょう。
この段階で調べておきたいことを1つ挙げるならば、検索ユーザーのニーズです。
検索エンジンからの流入が多いほど、安定的なアクセスが期待できます。
仮に検索エンジンからの流入をメインには考えていない場合でも、Googleの公開しているデータで、「どのキーワード(テーマ)に、どの程度の検索数(ニーズ)があるのか?」が定量的に分かるので、参考になるでしょう。
具体的には、GoogleAdwordsの提供している「キーワードプランナー」にアクセスしてみましょう。 (GoogleAdwordsのアカウントを持っている場合は、使用できます)

見込み客にニーズがありそうなキーワード候補のなかで、「検索ボリュームが多いキーワード」と「自社が提供できるコンテンツ」を見比べながら、優先順位を決めていくとよいでしょう。
KPI設定
今度は、KPIの設定です。
KPIというと、記事の「アクセス数」(PVやセッション数)を思い浮かべる方が多いと思います。
もちろんアクセス数も重要な指標ですが、仮にアクセスは集まっても商談や受注に貢献しなければ、成果になりません。
もしコンテンツマーケティングで求められるのが「新規リードの獲得」だった場合、分かりやすいのが、CPAへの換算でしょう。
KPI設定の例
KPI | 内容 | 例 |
---|---|---|
費用 | 記事の制作や集客にかかった費用 | 5,000,000円 |
獲得リード数 | コンテンツから発生した資料請求・問合せなど | 1,000件 |
CPA | 1リードあたりの獲得単価 | 5,000円 |
有効商談数 | コンテンツから発生した商談 | 100件 |
商談獲得単価 | 1商談あたりの獲得費用 | 50,000円 |
コンバージョン率 | リード獲得数÷セッション数 | 0.5% |
セッション数 | Webサイトへのユーザーの訪問回数 | 200,000セッション |
このように、商談から逆算してKPIを設定して、一定期間(たとえば1年間)での費用対効果を、仮にでも可視化します。
そうすれば、広告やDMなど他の集客手段とも比べやすくなり、幹部への説明もスムーズにできるでしょう。
これらのKPIを設定したうえで、リード数を達成するために必要なセッション数や、コンバージョン率といった、Web上のKPIに落とし込んでいきましょう。
PDCAを回す
このように設定した目標を達成するために、PDCAを回していきます。
まずはKPIが達成されているのか?を検証していきましょう。そのうえで、改善策を考えるときには、先ほど説明したKPIをブレイクダウンして、より具体的な指標に落として見ていきましょう。
目標の獲得リード数を達成するために、どのコンテンツが貢献しているか?を見ていきます。
セッション数が多いのは、どのコンテンツか?
コンバージョンに貢献しているのは、どのコンテンツか?
これらを、たとえばGoogleAnalyticsでチェックします。
大量のアクセスを集めているページや、アクセスは多くなくてもコンバージョンの起点となっているページがあれば、「他の記事も、そのページの構成にならって修正できないか?」あるいは、「同じようなテーマで、新しく別の記事を作れないか?」など、改善策を企画していきます。
なお、コンバージョンをWeb上での最終的な成果指標とした場合は、サイトによってはコンバージョンの件数が少ないために、PDCAを上手く回せないといった場合も出てくるはずです。
その場合は、「滞在時間」や「読了率」、「直帰率」や「離脱率」、「製品ページへの送客数」など、中間指標を用意して検討することをお薦めします。
このようにPDCAを精緻に回せば回すほど、その検証・集計をすべて手作業で行うと多大な工数がかかってしまいます。 たとえばアクセス解析も、Googleアナリティクスでたいていのことはできますが、コンテンツの貢献度合いをはかるためには、専用のツールを使うとよいでしょう。
また、獲得したリードが商談や受注にどれだけ貢献しているか?をはかるためには、マーケティングオートメーションツールの導入も合わせて検討するのをお薦めします。
ちなみに、このサイトで紹介している「SATORI」も、B2B企業でよく使われているマーケティングオートメーションツールなので、よろしければ資料をダウンロードしてみてください。
新規リード獲得・売上アップに結びつけている、米国の事例
BtoB企業でコンテンツマーケティングの活用が進んでいる米国では、成功事例が数多く生まれています。無料ebookや事例集などのオファーを用意して、ダウンロードしたリストを獲得。
単にアクセスを集めるだけではなく、新規リードの獲得や新規売上アップに結びつけている事例も、多くあります。
以下の記事から、いくつか成功事例を抜粋してご紹介しましょう。
(出典:”20 B2B Content Marketing Examples and Case Studies for 2015”)
事例1:EMC社
企業向けに情報管理製品を販売する同社は、ITのプロである購買担当者が、製品を提供するパートナー企業とのギャップを解消するために、コンテンツを作成。
- ページビュー:55%アップ
- リード:100%アップ
- 売上:1200万ドル
事例2:Experian Marketing Services社
デジタル・マーケティングの展望をガイドする、長編のレポートを制作。
ダウンロードできるようにして、オプトインを取得したリストにアプローチ。
それを起点に、リード獲得を狙いました。
- ダウンロード:8,978件
- オプトイン取得:4,154件
- リード:359件
事例3:Unitrends社
データ復旧サービスのホワイトペーパーを発行。
ハローウィンの時期に合わせて、ホラーをテーマとしたゲーム性を取り入れて、リード獲得・新規売上のアップを狙いました。
- リード:300件(そのうち185件が新規)
- 売上: 32,000ドル
事例4:Marketo社
ソーシャルメディアの活用初心者をターゲットにして、ソーシャルメディア戦略をどのように描けばよいのか?のサンプルプランを用意。
それを起点に、リードの獲得・新規売上のアップを狙いました。
- ダウンロード:40,791件
- 新規営業の機会:1,664件
- 売上:381,671ドル
2016年B2Bコンテンツマーケティングの展望
同じく米国の記事で面白いデータを見つけたので、最後にご紹介します。
B2B企業へのアンケート調査からの抜粋です。
(出典:B2B CONTENT MARKETING 2016 Benchmarks, Budgets, and Trends – North America )
コンテンツマーケティングを活用している企業は、88%

多くの企業が、コンテンツマーケティングに取り組んでいることが分かります。 ただし、「効果的に取り組めている」と答えた企業は、全体の30%に過ぎません。
最も重要な指標について、31%が「営業用のリードの質」と回答

2位に続くのが「営業(セールス)」で23%。一方、「コンバージョン率を高める」は9%、「営業用のリードの量」は7%と、それぞれ相対的に低くなっています。
単にリード数を増やすだけでなく、商談や受注に結びつくリードの供給が求められていることが読み取れます。
コンテンツマーケティングにかけている予算の割合は、平均で28%

50%以上の予算を投入する企業も2割弱出てきている一方で、ほとんどの企業では主力のチャネルとはなっていないと、予算だけを見ると推測されます。
ただし、51%の企業が「今後予算を増やす予定」と回答していることもあり、先ほど述べたような費用対効果が明確になれば、より伸びていくのかもしれません。
興味深かったのは、コンテンツマーケティングに効果的に取り組めているという企業ほど、以下の数字が高かったことでした。
- コンテンツマーケティングの戦略を資料にまとめている
- 編集方針(ミッションステートメント)を文書化している
- コンテンツマーケティングの成功イメージが、組織内で明確になっている
- 日次または週次でミーティングをしている
「戦略を定める」「組織内で共有する」など基本的なことが、思ったよりも大事なのかもしれません。
皆さんの会社でも、しっかりと戦略が定められているか?組織内で共有されているか?もう一度見直してみてはいかがでしょうか?
2018年B2Bコンテンツマーケティングの展望先述のレポートで、2018年度版が発表されていました。たった2年ですが、どのような変化があったのかを確認してみました。 コンテンツマーケティングを活用している企業はさらに増え、91%![]()
今後12か月でコンテンツマーケティングの予算は「増やす」が38%
|
「コンテンツ外注料金相場まとめ」ダウンロード

1982年生れ。東京大学教養学部卒。大手メーカー(三洋電機)・広告代理店(ファインドスター)・教育NPO(認定NPO法人カタリバ)を経て、2014年に独立。 現在はコンサルタントとして、デジタルマーケティングを主に支援している。 D2C(EC通販)やサブスクリプション、BtoBなどの業界でマーケティングの実務経験を積んできた。 広告やCRMなど企業での知見を、非営利団体の寄付募集に応用している。 ブログやTwitter・Linkedin・Facebookなどでも、マーケティングの情報を発信。 社会貢献のキャリア支援サイト「FunDio」を立ち上げ、求人採用や人材育成もサポートしている。